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「8月マンスリー〈野火〉上映会」レポ

8月のマンスリーセレクトは、去る8月7日(金)、8日(土)の2日間、開催されました。上映作品は、塚本晋也監督の『野火』。戦争末期のフィリピン・レイテ島で、部隊からも野戦病院からも見放された兵隊が飢餓と闘い、生死のさかいで密林をさまよう中で、自身や他の兵隊たちが人間性を失っていくさまを描いた、大岡昇平の原作を映画化したものです。今年は戦後75年ということで、プロジェクトメンバーの菊池信太郎さんがセレクトしました。

本編上映前には、塚本監督からのメッセージ動画が上映され、さらに7日の夜の回では、上映後に監督とのリモートトークが行われました。

上映会場の東屋さんの蔵とオンラインでつながれると塚本監督は開口一番に、「なんだか〈どこでもドア〉感が不思議ですね」とひとこと。そして、「戦場とはこういうものだというのを体験してもらうために、『野火』をつくった。ぜひ、音の臨場感がある劇場で見て欲しいです」とコメントくださいました。

続いて、司会を務めるセレクターの菊池さんから監督へ、この作品では、場所がどこで、いつの戦闘なのか「描かれていない部分」が見られるがそれはどうしてかという質問に塚本監督は、次のように答えます。

「これを過去の戦争として観てもらうのではなく、スクリーンで同時体験してもらうために描かなかった。当時の兵隊は、なぜここにいるのかも分からなかっただろう。作品を〈不条理な密室劇〉とするために敵も上官も映しませんでした」

また、原作とは異なる終わり方の意図を問われると、「これは映画なので、映像体験をしてもらいたかった。一兵卒の主観をシンプルに映像に置き換えることによって、戦場で負った精神的な傷は一生消えないだろうということを表現したかったが、端的に表すことができた。ラストの炎は過去のものではあるけど、未来に向けた炎でもある」と、近年せまる“戦争への気配”への危惧とともに語りました。

シネマデアエル恒例の、会場からの感想の分かち合いや塚本監督への質問もなされました。その中から、いくつかご紹介します。

東日本大震災後の光景を「戦争のあとみたいだ」と感じたという女性は、最近戦争もののゲームばかりやって言葉遣いも乱暴になってきているという小6の息子さんに「本物の戦争を見せたい」と鑑賞くださいました。これに対し監督は、「ヒロイズムや美談ではなく、戦争の狂気を描いた」として、実際にフィリピン戦を戦った方々へのインタビューを踏まえて、次のようにも語ります。

「お話を聞いた方々が実際に体験したのは、これどころじゃなくて、作品では相当にやわらかくして描写している。精神と肉体を無残に砕かせるのが戦争です」

さて、一緒に鑑賞した小学生の息子さんの感想はというと、「これぐらいじゃおさまらないほどの戦争が実際にあったことが衝撃できた」と、とても立派な感想をいただきました。

今回の上映では、『野火』を複数回観ているという方も多く、逆に監督からの「DVDで観るのと劇場では違いまいたか?」という問いに、「音響もすごいし、肉体の描写で見えてくるものが違う。1回観て終わりじゃない作品」とコメントされていました。

「塚本監督の作品を最後まで見れるか心配だったが、みんなと一緒だったので観ることができた。こうして塚本監督とお話しできるのはすごい体験です」というコメントには監督も「こうして話ができるのはいいですね」とおっしゃってくださり、リモートトークに対する評価もいただけました。

翌8日の回でも、「原作者の大岡昇平が、帝大出のインテリが一兵卒として戦争に行き、その体験を文学作品に仕上げたというのは、世界でも初めてと言ってもいいのではないか」「ほぼ不快感しか感じなかった」「観たことを後悔している。人間を人間でなくしていくのが、戦争だと思った」といった感想が述べられました。

最後に、リモートトークでの塚本晋也監督からの締めのメッセージを紹介します。

「戦後70年の年(2015年)に危機感をもってつくった映画を、以降も毎年上映してもらっています。いまも、戦争に近づいている気もするので、一人でも多くの人に観てみらいたい作品です。せめて、8月15日のあたりに観ていただき、戦争のことを考えるきっかけにしてほしいです」

いっぽう、7日の日は、宮古ではお盆にあたって死者の魂を迎える「松明かし」の日ということで、場外のノキシタカーデンでも松明かしを行い、また思い思いの絵柄を書いた灯りをともすアートイベント「明日、明かし」とともに鎮魂の夏に思いを馳せました。(終わり)

※当日は、定員を20名に縮小し、来場者のみなさんにはマスク着用、手指消毒、入場者名簿の作成への協力をお願いし、また換気も通常以上に行うなどして、コロナ感染症対策を講じて、上映会を開催しました。より安全で安心な上映会の実現へのご協力に感謝いたします。

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